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自然から学ぶアイデアの源泉

2010年11月30日 (火) 20:09

interview 石田秀輝氏(東北大学大学院環境科学研究科教授)

自然は完璧な循環を最小のエネルギーで駆動する

石田秀輝(東北大学大学院環境科学研究科教授)

-生活者の環境への意識が高まっています。

今、世の中は地球環境問題を意識してすべてのものが「エコ」になっています。例えば、エアコンはこの10年間で比較するとエネルギー消費量は6割になりました。冷蔵庫は1994年と比べると2割にまでなっています。企業は大変な努力をしてエコテクノロジーを市場に投入しています。

一方、生活者の意識はどうでしょうか。去年(09年)のデータでは約90%の人が地球環境に関心があり、うち70%が何か行動を起こしている、または起こさなければいけないと思っています。しかし、問題はここにあります。生活者が地球環境のことを一生懸命考え、企業がエコのテクノロジーを市場にどんどん投入したら環境負荷は下がるはずです。現実は、家庭の環境負荷はピークを超えましたが、90年比で147%になっています。まさにジレンマです。

-企業努力と生活者の意識の向上が、環境負荷の低減に結びついていないのですね。

この「エコジレンマ」がなぜ起こるのでしょうか。生活者が「エコの商品だから買っていい」という、エコ消費財が購買時の免罪符になっていると思われます。例えば、「エコカーを買ったから今までの走行距離よりもたくさん走ってもいい」という意味です。これは確定ではありませんが、ほかに答えが見えてきません。

その点からテクノロジーを考えると、実はテクノロジーはトレードオフで進歩しています。いいと思ってやったテクノロジーの反対側で問題が起こります。その問題をテクノロジーで解決すると、また反対側で問題が起こります。そういう繰り返しで今まで進歩してきました。トレードオフを起こさないためにはテクノロジーだけではなく、どのようなライフスタイルが生まれるのかをセットで市場投入しないと、この問題を解決できないと思います。

-テクノロジーとライフスタイルを結びつけて考える必要があります。

今、みんながエコの話ばかりしていて、ライフスタイルが見えません。行き着くところはテクノロジーの「ユニフォーム化」が起こり、みんな同じテクノロジーになってしまいます。ユニフォーム化の次にあるのはコスト競争です。コスト競争が起きれば最後はブランド力が下がります。

だから、ライフスタイルを訴求しなければいけません。私は地球環境問題には気候変動、資源、生物多様性など7つの問題があると思っています。少なくとも、 2030年ごろにはこれらのリスクが限界に達し、文明崩壊の引き金を引くかもしれません。これらをリスクにしてしまったのは人間活動の肥大化です。すなわち地球環境問題とは、人間活動の肥大化をいかに縮小できるかということになります。そのためにはライフスタイルを変え、そのライフスタイルに必要なテクノロジーを投入することが大切です。2030年の環境制約と、人間が快適に生活したいという「欲」の両方を認めた時、どんなライフスタイルが見えてくるのかを考える必要があります。

-どのようなライフスタイルが考えられるのでしょうか。

例えば、地元での暮らしを大切にするというライフスタイルでは、1次、2次、3次産業の地産地消やサービス業型の製造業の新しい形が見えてきます。その絵が見えてくれば、そこに必要なテクノロジーを見つけ出して自然の中に探しにいきます。そういうアプローチができると思っています。

また、住宅は現在完成された家を購入していますが、これからは子どもの成長や生活パターンに合わせて熟成させるサービスや商材の提供もあるでしょう。そう考えると実はとんでもない宝の山や、楽しいビジネス、テクノロジーがあるかもしれません。

われわれはいろいろなテクノロジーをこれからもつくらなければいけません。資源やエネルギーのないわが国で、テクノロジーは非常に大事な力です。テクノロジーとライフスタイルを結びつけて、新しいビジネスの仕方や新しいテクノロジーのあり方が、これから議論されるべきだと思います。

-新しいライフスタイルを実現する上で必要なテクノロジーが「ネイチャーテクノロジー」です。

シロアリの巣は湿度と温度を一定に保つ機能を備えている

シロアリの巣は湿度と温度を一定に保つ機能を備えている
Photo by Bengt Olof ARADSSON
Creative Commons

自然は完ぺきな循環を最も小さなエネルギーで駆動し、唯一持続可能な社会を持っています。だから、自然に隠れているメカニズムやシステムを、もう一度サイエンスの目でとらえてテクノロジーとして再デザインする必要があります。

しかし、自然のモノをまねしてつくろうとすると、膨大な資源やエネルギーがかかる場合があります。そこで「サステイナブル」というフィルターをかけ、テクノロジーとしてデザインし直すことで、従来と全く違った新しいライフスタイルをつくるテクノロジー、すなわち「ネイチャーテクノロジー」が生まれてきます。

例えば、クモの糸は鉄と同程度の強度がありながら重さは鉄の5分の1です。これから布をつくれば絹のようにしなやかで鉄のように丈夫なものができます。すでに慶応義塾大学の学生が会社を設立し糸を作り始めています。

モンシロチョウが持っているピエリシンというタンパク質は抗がん作用があり、100万倍に薄めてもがん細胞の50%以上を殺すことができます。しかも副作用がありません。がんセンターなどが中心となって研究しています。

 
カタツムリの殻の構造は汚れが付きにくい

カタツムリの殻の構造は汚れが付きにくい

このほかにも、泡を使った水のいらない風呂や、シロアリの巣のメカニズムを取り入れた無電源のエアコン、カタツムリの殻の構造を活用した汚れの付きにくい表面構造などが考えられます。

こうした自然の持つ機能を十分生かした「ネイチャーテクノロジー」の普及が今後のライフスタイルを考える上で重要になります。

 

-ネイチャーテクノロジーを活用することで人間の「欲」はどうあるべきなのでしょうか。

石田秀輝(東北大学大学院環境科学研究科教授)

私たちが自然から学べることに、自然が利己的であることがあります。利己的であるにもかかわらず、淘汰(とうた)の原理が働くことで完ぺきな循環を持っています。人間も利己的ですが、テクノロジーを道具として自然を食い散らかし、淘汰を避けてきました。

人間は4段階で生活行動の淘汰を起こすべきです。非最適化技術の淘汰、最適化技術の淘汰、行為の淘汰、ライフスタイルの淘汰という順番です。人間は一度得た快適性や利便性を捨てられませんが、それを肯定していくべきです。そのため、新しいテクノロジーの形は物欲ではなく精神欲を満たすものになり、自然観を持つものになります。

それは愛着や簡明などの要素を含んだ“粋”という概念で成立します。文化とライフスタイルがセットになったテクノロジーを生まれなければいけません。心豊かに生きながら生活価値の肥大化を縮小させるテクノロジーです。その原点は江戸の文化にあります。日本人は精神欲を生かすことを過去に行っており、そのメカニズムを再び学べばいいのではないでしょうか。

例えば、からくり人形やコイの養殖、江戸時代の数学者、関孝和の和算などがあります。これらは自分たちが楽しむためのエンターテインメントとしてつくられてきました。

江戸の文化から我々が学んだことを、新しい将来のテクノロジーの中につくりあげていく。こういうテクノロジー、すなわち「ネイチャーテクノロジー」をつくって、速く新しいライフスタイルに大きくかじを切れればいいと思います。

石田秀輝(いしだひでき)

東北大学大学院環境科学研究科教授。博士(工学)。
1953 年生まれ。(株)INAXを経て2004年より現職。モノづくりのパラダイムシフトに向けて国内外で多くの発信を続けている。2004年からは、自然のすごさを賢く活かす新しいモノづくり「ネイチャー・テクノロジー」を提唱。また、社会人の環境人材育成や、子供たちの環境教育にも積極的に取り組んでいる。ネイチャーテック研究会代表、サステナブル・ソリューションズ理事長、ものづくり生命文明機構理事、アースウォッチ・ジャパン理事ほか。専門は地質鉱物学をベースとした材料科学。 


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